ある光景


人っ子一人いない野原に立ったつむじ風が
行き場を失って戸惑っている
気化した夥しい涙は綿雲となって
瀕死の青空の片隅に浮かぶ

草のあいだに点々と骸が転がっているが
それを啄ばむ鳥たちの姿はない
かつて音楽と呼ばれたものの気配が
気弱な背後霊のように漂っている

人々が考え語り書き継いだすべての言葉は
そもそもの始まりから間違っていた
生まれたばかりの仔犬に向けられた
無言のほほえみだけが正しかったのだ

海がひたひたと山々に近づき
星がひとつまたひとつと瞑目する
「神」がまだいるからか
それとももう死んでしまったからか

世界の終わりはこんなにも静かで美しい…

と 私は書いてみる
言葉には私の過去ばかりがあって
未来はどこにも見当たらない


作者
谷川俊太郎

报错/编辑
  1. 初次上传:王负剑
添加诗作
其他版本
添加译本

PoemWiki 评分

暂无评分
轻点评分 ⇨
  1. 暂无评论    写评论