詩人の亡霊


詩人の亡霊が佇んでいる
廃屋の雨滴の伝わる窓硝子の向こうに
文学史の片隅に名を残しただけでは満足せず
女を死に追いやっただけでは満足せず
あの世に安住するのを潔しとせずに

もう声をあげることは出来ないが
数々の文字と化して彼はいる
新旧の図書館の地下の書棚の奥で
いまだに親友と名声を競いあっている
ついに詩の問いかけに答えられずに

彼は青空の心を読んだと信じた
小鳥の囀りの理由を知ったと信じた
鍋釜のように人々とともに暮らし
叫びと囁きにひそむ静けさを会得したと信じた
一滴の汗も血も流さずに

詩人の亡霊の隣にいるのは犀の亡霊
訝しげに隣人の顔をのぞきこむ
犀は詩人も同じ哺乳類だったことを知らない
人よ どうか子守唄を歌ってやってくれ
親しい死者と詩人を区別せずに


作者
谷川俊太郎

报错/编辑
  1. 初次上传:王负剑
添加诗作
其他版本
添加译本

PoemWiki 评分

暂无评分
轻点评分 ⇨
  1. 暂无评论    写评论