入眠


遠くで鴉が鳴いている
かなりしつこく鳴いている
こんな夜中に何用か
どこかで洗濯機が唸っていて
天井から得体の知れぬパチパチいう音

家の外には黒い空間がひろがっている
いのちに満たされているはずなのに
それがVOIDという英語を思い出させる
(シカバネノカミガノビルツメガノビル)

いつから世界はこんな組み立てになったのだろう
眠れぬままに聞く夜中の音が心の中で
不条理な音楽になる

*

言いたいことはないのに
起き出して紙に語を並べるのは
言葉を石ころのように転がしておきたいから

氾濫する意味は暴力の前に無力だ
涙もそして
沈黙ももちろん
(タイジニカミガハエルツメガハエル)

だが言葉にひそむ静けさは
ときに笑いに
ときに無意味に
ときに歌に変装して
人をこの世の縁にいざなう…

*

深いオーガズムの記億に甦る世界が
この現実とは別次元に存在する
マグマのように

その坩堝の中で夢うつつに
人種と宗教と制度と思想と幻想と
そんな何もかもをごった煮にして待つ
ひそかな産声を


作者
谷川俊太郎

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